にじゅういち

21歳で結婚する、しっかりした若者もいる昨今。自分はどうやったかな。
授業を終えたらその足でバットとグローブを持って草野球に熱中するという、小学生レベルの日々を過ごしてた。
四国の片田舎で下宿。目の前は海。梅雨明けから、休講、休み時間なんかを利用して、海水浴を楽しんでいた、夢のような日々やな。少し沖合いに、地元の猟師が定置網を構えてた。にじゅういちの自分には、その網が漁師や家族を支える大切なものだとは想像すら出来ず、海にボンヤリ浮かぶ単なるオブジェとして見てたな。こうなると好奇心が湧き出して止まらん。そのブイを友人と二人で泳ぎながらドンドン移動させて遊んだ。
ある日、休講となって下宿でノンビリマンガを読んでたら、友達が血相変えて部屋に来たよ。「、、、、この前動かしたブイ!漁師ごっつ怒って今からカチコミ(殴りこみ)に来るらしいで!逃げな!逃げな!」。意味判らん!?ゆうてる友達もまともに口動いて無い。でも、殺される位怒っとることが伝わった。急に喉が渇いてきて、首筋に炭酸水浴びせたみたいに冷たなって、心臓ドッコンドッコン揺れて、、、。殺される前ってそんな感じになるねん。ホンマに。
マジソンバッグにパンツとかシャツとか詰め込んで、クラブの後輩にお金借りまくった。電車で逃げたら捕まるとおもって、自宅通学してた友達の実家からスーパーカブを借りた。当時日曜・祭日がGS定休日やったので、予備タンクが要る。途中田舎のよろずやで麦茶の入れ物を3本買って、それにガソリンを入れてもらった。GSのオバハン反対してたけど、拝み倒して入れてもろたんや。
行き先はとにかく「秘境へ」。道路標識に「秘境こちら」って書いてないやろ?知ってる秘境は「かずら橋」方面しか無い。友達と二人きりで、ガソリン入り麦茶ポットを前カゴに入れたスーパーカブ二台、かずら橋へGO! 止まったら殺される、見つかったら殺される。数日後から始まる試験も後ろ髪引かれたけど、命が惜しいので放棄したわ。
クソボロの民宿に泊まる事にした。自分はまさに「きのみきのまま」やのに、友達は、、、。試験勉強道具一式、スカイセンサー5900(ラジオ)、プレーヤーも無いのにキャロルのLPレコード!圧巻はマンガ「あぶさん」を10巻以上持ってきとる。
わし、真顔で怒ったわ。殺されるかもしれんとおもて逃げてきたのに、おまえ荷物多すぎじゃ!!!
そいつ、謝るんかとおもたら「あぶさん、読んでもエエで」とちっさい声で言いよるがな。もう、アカン!こんなヤツと逃避行したって、つかまるわ絶対、、、。い
あぶさん10巻”を担いだ二人の逃避行は5日に及んだ。よっぽど途中で捨てたろかとおもたけど、生きて帰れたときに、11巻以降読めたら、絶対最初から読みたなるという相棒の意見を聞いたっただけ。野宿するほど根性無かったので、ひたすら安い民宿を転々としたわ。

その間、学校の試験も終わった。当然二人とも0点。追試認められず、見事に単位を落とした。
クラブの顧問に付き添われて、漁師の家に謝りに行った。めちゃめちゃ怒られたけど、殺されはしなかった。逃げている間、悪い友達なんかは「二人共退学したことにして、部屋の荷物の山分けの相談」までしたそうや。

今でもな、家族で海水浴に行って定置網を見たら、動かしたなるわ。
ローラー小娘とローラー家内を乗せたスーパーカブ、前カゴにはガソリン入りの麦茶のポット。それにロードレーサーと固定ローラー、、、。乗るかな。

自転車:通勤往復16km